VENTRAL HERNIA
腹壁瘢痕ヘルニア
Ventral Hernia
腹壁瘢痕ヘルニア
腹壁瘢痕ヘルニアは腹部の手術後の合併症のひとつです。おなかの手術の傷跡(瘢痕)は、傷がない部分と比べると弱く、この部分から内臓が皮膚の下に脱出する病気です。おなかの表面がふくらんで見えることが多く、力を入れるとふくらみが大きくなります。腹壁瘢痕ヘルニアは自然に治ることはありません。日本では年間に1万人弱の方が腹壁瘢痕ヘルニアの手術を受けています。すべての患者さまが当院での日帰り手術が可能ということではありませんが、安心して治療を受けられるように、豊富な経験から患者さまの状態にあった最適な治療方法についてご説明させていただきます。
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目次
腹壁瘢痕ヘルニアについて
腹壁瘢痕ヘルニアとは?
腹壁瘢痕ヘルニアとは、開腹手術や外傷後の傷跡(瘢痕)が大きく膨らむ状態のことをいいます。膨らみは、立った時、咳・くしゃみ、排便時などの腹圧がかかった時に大きくなることが多いです。腹部の手術の合併症のひとつで、術後10年間で約1割の方に起こるといわれています。
腹壁瘢痕ヘルニアの原因は?
開腹手術では、お腹を閉じる時に、皮膚、皮下組織、筋膜、腹膜を縫い合わせます。しかし、手術後に傷の感染を起したり、術前の栄養状態があまり良くなかったり、もともと筋膜などが薄い人は、筋膜の癒合が悪くなり隙間(医学用語でヘルニア門と呼びます)が生じます。その隙間から内臓脂肪や腸管が出入りする状態が腹壁瘢痕ヘルニアです。
腹壁瘢痕ヘルニアの症状は?
膨らみは立った時など腹圧がかかった時に大きくなることが多く、仰向けに横になると平に戻ります。また前述のヘルニア門の大きさや、出入りするものによっても症状は変わります。無症状のこともありますが、一般にヘルニア門が小さい場合や、腸管が出入りする場合は痛みや食後腹部膨満感などの症状があります。
日帰り手術が困難な腹壁瘢痕ヘルニアは?
腹壁瘢痕ヘルニアの手術は、ヘルニアの状態(ヘルニア門の大きさ、何が出入りしているか、癒着の程度など)や患者様の状態(体型や基礎疾患)によって難易度が大きく変わってきます。当院では患者様の安全を最優先に考えて、ヘルニア門の大きさが3cm以内で癒着の程度が少ないものを手術適応としています。
入院手術が必要な腹壁瘢痕ヘルニアの場合
外来による日帰り手術が困難な症例は、当院の関連施設である「地域医療機能推進機構 横浜中央病院」に紹介いたします。
腹壁瘢痕ヘルニアの治療法
手術方法について
① 自分の組織を利用して手術する方法
自分自身の組織を利用して、弱くなった部分(ヘルニア門)を縫い合わせる方法です。利点は自分自身の組織を使用するため、人工物と比較して感染に強いこと膚切開です。欠点は弱くなった周辺の組織を利用するため、再発する可能性が圧倒的に高いことです。
② 人工物(メッシュ等)を使用して手術する方法
人体に埋め込んでも問題がないとされている素材で作られたメッシュを使い、弱くなった部分を補強する治療方法です。患者様の手術歴、ヘルニアの発生部位や大きさ、癒着の有無・程度、全身状態などを総合的に判断して、適切な部位に人工物を埋め込みます。お腹の中はほとんど触らないため、術後すぐに軽い食事ができます。メッシュの力でお腹の圧力を支えるため、再発もほとんどありません。
当院で行っている手術について
当院で行っている腹壁瘢痕ヘルニアに対する手術について説明します。
麻酔について
手術は全身麻酔により、患者さまを痛みやストレスから守り安全に行います。全身麻酔は、患者さまが眠っている間に手術が行われる状態にします。不安や恐怖を感じないように意識を無くして眠ってもらい、色々な方法で痛みを取り、反射で身体が動いたりして手術の妨げにならないようにします。手術中の記憶はなく、手術の途中で麻酔が醒めることはありません。
手術方法について
① 腹腔鏡の挿入
最初に5〜10mmの皮膚切開を行い、腹腔内を観察するカメラ(腹腔鏡)を挿入します。ヘルニアの発生部位や大きさ、癒着の有無・程度などを確認します。
② 弱くなった部分(ヘルニア門)の皮膚切開
ヘルニア門の大きさに合わせて皮膚切開を行います。皮膚切開の長さの目安は、ヘルニア門の大きさ(直径)プラス3〜4cmです。ヘルニア門全体を露出させ、人工物を埋め込むスペースを確保します。
③ 人工物(メッシュ)の留置
腹腔内からの観察した様子などから、最適な部位に人工物(メッシュ)を留置します。人工物(メッシュ)は、ヘルニア門の大きさや留置する部位により、数種類の中から選んで使用します。人工物(メッシュ)を固定する際には、ホッチキスのような器具を使用する場合があります。
④ ドレーンの留置
手術後にキズの内部に溜まったリンパ液や血液を体外に排出する目的で、5mmくらいの太さの管を入れる場合があります。退院前または術後の診察時に抜きます。
当院では、腹壁瘢痕ヘルニアの状態を検査でしっかりと診断し、
術中所見と合わせて総合的に判断した上で、
患者さまに合った最適な手術方法を選択します。
合併症について
腹壁瘢痕ヘルニアの手術で、代表的な合併症について説明いたします。
皮下出血
術後の皮膚の下の出血により、キズの周囲の皮膚が紫色に変色することがあります。1ヶ月程度続きますが、特に治療は必要ありません。高齢の方や血液をサラサラにするお薬を内服している患者様に多い合併症です。
皮下血腫
術後に極細の血管が切れて、キズの内側に血液が溜り腫れてくる状態です。痛みを伴うことが多いです。症状が強い場合は切開して血腫(血のかたまり)を搔き出す必要があります。高齢の方、糖尿病の患者様や血液をサラサラにするお薬を内服している患者様に多い合併症です。
創部違和感・硬結
人工補強材が身体に馴染む間での期間(術後2〜6ヶ月間)、キズに違和感を感じることがありますが徐々に軽快してきます。また、キズが硬くなることがありますが、キズが治る過程の現象ですので心配ありません。
感染(創部感染・メッシュ感染)
手術創部(キズ)の感染は、どんなに予防してもすべての手術で起こる可能性がある合併症です。
軽症であれば、創部の処置(洗浄など)や内服薬・外用薬で軽快します。メッシュ感染を起した場合は、再手術が必要となる場合があります。喫煙者や糖尿病の患者様に多い術後合併症のひとつです。
臓器損傷
癒着が強い場合、術中に腸管や血管を傷つけてしまう場合があります。手術中に気づけばその場で 修復しますが,ごく稀に気が付かずに,手術の後で腸管内容が漏れ出たり,腹膜炎を起こすことがあります。
術後経過についての説明
術後経過が順調な場合、術後半日程で帰宅が可能となります。キズの内部に溜まったリンパ液や血液を体外に排出する目的で、5mmくらいの太さの管(ドレーン)を入れたまま帰宅して頂く場合があります。自宅での処置の方法は、看護師より詳しく説明いたします。帰宅後より日常の動きに制限はありませんが、気分不快や創部の痛みが生じたときは休憩を取るようにしてください。
術後の1回目の診察は、術後1週間目になります。
術後の経過観察について
当院では、術後半年後と1年後に受診して頂いております。診察や画像検査(エコー)により、入れたメッシュの状態の確認、再発の有無等を確認させて頂きます。
手術費用について
手術費用について、薬剤・医療材料により増減ありますが、3割負担の場合おおよそ 92,000円〜98,000円です。
高額療養費の対象となる場合、窓口でのお支払いは少なくなります。参照:協会けんぽ
腹壁瘢痕ヘルニア手術Q & A
自宅で創部(キズ)の処置は必要ですか?
就労について?
術後の運動は?
シャワー・入浴について?
その他日常生活の注意点は?
日帰り手術の制約はありますか?