鼠径ヘルニア
(そけいヘルニア)

鼠径ヘルニア(そけいヘルニア)は、一般的に「脱腸」と呼ばれる病気です。足の付け根(鼠径部)が膨らんだり、立ったときやお腹に力を入れたときに膨らみが現れたりすることが特徴です。初めのうちは痛みがほとんどなく、「様子を見ても大丈夫だろう」と考えてしまう方も少なくありません。しかし、鼠径ヘルニアは自然に治ることはなく、時間の経過とともに徐々に大きくなる病気です。まれに腸がヘルニアにはまり込んで戻らなくなる「嵌頓(かんとん)」を起こすと、緊急手術が必要になることもあります。

横浜みなと外科クリニックでは、外科専門医が診察から手術、術後のフォローまで一貫して担当しています。これまで5,000例以上の日帰り手術で培ってきた経験をもとに、患者さん一人ひとりの症状や生活スタイルに合わせた治療をご提案し、安心して手術を受けていただけるよう丁寧な診療を心がけています。

鼠径ヘルニアについて

鼠径ヘルニアとは?

鼠径ヘルニアとは、お腹の筋肉や筋膜が弱くなった部分から腹膜や腸などがお腹の外へ飛び出してしまう病気です。一般には「脱腸」と呼ばれています。成人では加齢による筋膜の弱化が主な原因で、中高年の男性に多くみられますが、女性にも発症します。鼠径部の膨らみは横になると自然に戻ることが多く、初期には痛みを伴わないことも少なくありません。しかし、放置するとヘルニアは徐々に大きくなり、痛みや違和感が強くなることがあります。また、飛び出した腸が戻らなくなる「嵌頓」を起こすと、腸への血流が障害され、緊急手術が必要となる場合があります。鼠径ヘルニアは自然に治ることはありません。安全に治療するためには、適切な時期に手術を受けることが大切です。

このような症状はありませんか?

次のような症状がある場合は、鼠径ヘルニアの可能性があります。

  • ・足の付け根に膨らみや違和感や痛みがある
  • ・立っていると膨らみが大きくなり、押したり横になると小さくなる(元に戻る)
  • ・咳や力仕事をすると膨らむ
  • ・最近膨らみが大きくなってきて戻りづらくなった
  • ・急に強い痛みが出て、膨らみが戻らなくなった

一つでも当てはまる症状がありましたら、お早めにご相談ください。

鼠径ヘルニアの原因

鼠径ヘルニアは、お腹の壁を支える筋膜が弱くなることで起こります。
加齢による組織の変化が最も多い原因ですが、

  • ・重い荷物を持つ仕事
  • ・慢性的な咳
  • ・便秘
  • ・肥満
  • ・前立腺肥大による排尿時のいきみ

など、お腹に力がかかる状態が続くことで発症しやすくなります。

鼠径ヘルニアの種類

鼠径ヘルニアは、ヘルニアが飛び出してくる場所によって、主に外鼠径ヘルニア・内鼠径ヘルニア・大腿ヘルニアに分類されます。

  1. 外鼠径ヘルニア

    径部の外側にある内鼠径輪という「穴」から出てくるヘルニア。成人の鼠径ヘルニアで最も多いタイプです。

  2. 内鼠径ヘルニア

    鼠径靱帯の頭側の横筋筋膜という部分の「裂け目」比較的高齢の方に多いタイプです。

  3. 大腿ヘルニア

    鼠径部よりやや下にある大腿輪という部分から出てくるヘルニア。女性や痩せたご高齢の方にみられ、嵌頓を起こしやすいタイプです。

外鼠径ヘルニア・内鼠径ヘルニア・大腿ヘルニアが起こる位置

このように、鼠径ヘルニアにはいくつかの種類があり、同じ患者さんに複数のヘルニアがみられることもあります。

検査・診断

鼠径ヘルニアの診断は、まず問診と診察を中心に行います。
立った状態や力を入れた状態で鼠径部の膨らみを確認し、症状や脱出の程度を評価し、超音波検査(エコー)を積極的に行い、ヘルニアの種類や大きさ、脱出部位を詳しく確認しています。超音波検査は、身体に超音波を当てて内部の状態を確認する検査で、放射線を使用しないため被曝の心配がありません。身体への負担が少なく、繰り返し検査を行うことが可能です。ヘルニアの内容(腸管や脂肪組織など)、脱出の程度、反対側の鼠径部の状態なども確認することができます。
当院では、ヘルニア診療に精通した医師が自ら超音波検査を行い、診察所見とあわせて総合的に診断しています。CT検査が必要な場合には、連携医療機関をご紹介しています。

鼠径ヘルニアの治療

鼠径ヘルニアは薬で治すことはできません。根本的な治療は手術になります。
当院では患者さんの年齢、ヘルニアの種類、大きさ、全身状態などを総合的に判断し、一人ひとりに適した術式をご提案しています。

主な手術方法

01メッシュプラグ法

鼠径部を約3〜4cm切開して行います。ポリプロピレン製の人工補強材を使用します。
鼠径ヘルニア手術としては、最も一般的で安全な手術法のひとつです。

メッシュプラグと補強用メッシュ
補強材のメッシュプラグ

02内鼠径輪縫縮術(Marcy法)

鼠径部を約2〜3cm切開して行います。
ヘルニアの出口を人工補強材を使わずに縫い合わせて塞ぐ手術です。
比較的若い女性の症例が適応になります。

内鼠径輪縫縮術(Marcy法)
内鼠径輪縫縮術(Marcy法)

03腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)

お臍の上を約5mm、左右脇腹を5mmずつ合計3ヶ所切開して行います。
お腹の中に二酸化炭素のガスを入れて、カメラを挿入してお腹の映像をテレビモニタで見ながら、お腹の内側からヘルニアの出口を人工補強材で補強する手術です。
心肺機能に不安のある方や高齢の方、下腹部に手術歴のある方は適応外になります。

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)
腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)

04腹腔鏡下誘導鼠径部切開法(ハイブリッド法)

最初にお臍の頭側を約5mm切開し、腹腔鏡を入れてお腹の内側からヘルニアの出口を観察します。
その後、鼠径部を約2〜3cm切開して人工補強材を最適な部位に正確に留置します。
再発症例、大きなヘルニア、戻りづらい症例、癒着等が予想される症例等が良い適応と考えます。

腹腔鏡を用いた手術の様子

それぞれに適応や特徴があり、診察時に詳しくご説明いたします。

表は横にスクロールできます

術式名称 鼠径部切開法 腹腔鏡下ヘルニア修復術
メッシュプラグ法 Marcy法 TAPP法 ハイブリッド法
皮膚切開の位置と大きさ
(右側の場合)
メッシュプラグ法の右鼠径部の切開位置 鼠径部に3〜4cmの切開 Marcy法の右鼠径部の切開位置 鼠径部に2〜3cmの切開 TAPP法のへそ上と左右の腹部の切開位置 5〜10mmの切開が3ヶ所
へそ上に3〜5mmの切開
ハイブリッド法のへそ上と右鼠径部の切開位置 へそ上に3〜5mmの切開
鼠径部に2〜3cmの切開
当院での適応 すべての患者様 比較的若い女性の患者様
(50歳くらいまで)
体力のある若い患者様 すべての患者様
特に再発症例、大きい症例、戻りにくい症例など
麻酔方法 全身麻酔全身麻酔全身麻酔全身麻酔
人工補強材 (+)(ー)(+)(+)
およその手術時間 20〜30分20〜30分60〜100分30〜40分
手術の長所○
  • 手術方法がシンプル
  • 体への負担が軽い
  • 人工補強材を使わない
  • 体への負担が軽い
  • キズが小さい
  • 痛みが比較的少ない
  • 最適な部位に人工補強材を確実に留置できる
  • 短時間でキズが比較的小さい
手術の短所×
  • 腹腔鏡下ヘルニア修復術と比較してキズが大きい
  • 適応が限られる
  • 手術方法が複雑
  • 手術時間が長い
  • 適応が限られる
  • TAPP法と比較してキズが大きい
手術費用
令和8年8月〜
令和9年7月診療分
約5万円 約4万円 約11万円(3割負担)
(3割負担) 高額療養費支給制度により
36,900〜85,800円(所得による)
1割・2割負担 8,000〜22,000円(所得による)

※ 表の手術費用は令和8年8月〜令和9年7月診療分です。横浜市高額療養費制度の詳細はコチラ

手術後の経過・
日常生活

手術後の経過が順調な場合、術後30分程で歩行や飲水ができます。その後問題がなければ、術後2時間程で帰宅となります。帰宅後は室内での日常の動きに制限はありませんが、気分不快や創部の痛みが生じたときは休憩を取るようにしてください。デスクワークであれば翌日から復帰できる方も多く、日常生活も無理のない範囲で早期に再開できます。一方、重い物を持つ仕事や腹圧のかかる作業、激しい運動については、医師の指示に従って再開してください。術後の診察は、手術翌日(もしくは翌々日)、1週間後と2週間後に行います。その後は、半年後と1年後にも超音波検査を行い、再発やメッシュの状態、慢性疼痛の有無などを確認しています。

手術の合併症について

代表的な合併症

鼠径ヘルニアの手術は比較的安全性の高い手術ですが、どのような手術にも一定のリスク(合併症)があります。ここでは、鼠径ヘルニア手術で起こる可能性のある代表的な合併症についてご説明いたします。

皮下出血・血腫

手術後、傷の周囲や陰嚢・陰茎周辺の皮膚が紫色になることがあります。これは、手術操作による出血が皮膚の下に広がることで起こります。多くの場合は自然に吸収され、時間の経過とともに改善します。見た目に驚かれることがありますが、通常は特別な治療を必要としません。また、傷の内部に血液が溜まり、腫れや痛みを伴う状態を血腫といいます。多くは自然に軽快しますが、血液が多く溜まった場合や痛みが強い場合は処置が必要になることがあります。特に、ご高齢の方や血液をサラサラにする薬を服用されている方では起こりやすいため、手術前にお薬の確認を十分に行っています。

腫れ(漿液腫)

手術後、鼠径部や陰嚢周囲が膨らんでくることがあります。これは、手術によってできた空間にリンパ液などの体液が溜まる「漿液腫(しょうえきしゅ)」によるものです。痛みを伴わないことが多く、通常は数週間から数か月かけて自然に吸収されます。「ヘルニアが再発したのではないか」と心配される患者さんもいらっしゃいますが、術後の正常な経過のひとつです。大きさや症状によっては、針で液体を抜く処置を行うことがあります。

傷の違和感・硬結

手術後しばらくは、傷のつっぱり感や違和感、軽い痛みを感じることがあります。これは、傷が治っていく過程や、体内に留置した人工補強材(メッシュ)に身体が馴染むまでの一時的な反応によるものです。多くの場合、数か月かけて徐々に改善していきます。日常生活に支障がない程度の違和感であれば、時間とともに軽快していきます。また、傷の部分が硬くなることがありますが、これは傷が治っていく過程で生じる変化で、時間とともに軽快していきます。

感染(創部感染・メッシュ感染)

手術では感染を予防するために十分な対策を行っていますが、手術創(傷)に細菌が入り、感染を起こす可能性があります。軽度の感染であれば、傷の処置や抗菌薬による治療で改善します。非常にまれですが、人工補強材(メッシュ)に感染が起こった場合には、追加の治療やメッシュを取り除く手術が必要になることがあります。感染のリスクを下げるため、糖尿病の管理や禁煙など、手術前から患者さんと一緒に準備を進めることも大切です。

慢性疼痛

鼠径ヘルニア手術後、3か月以上痛みや違和感が続く状態を「術後慢性疼痛」といいます。原因はさまざまですが、手術部位周囲の神経への刺激や、組織が治癒していく過程で生じることがあります。多くの場合、時間の経過とともに改善していきますが、症状が続く場合には状態を確認し、必要に応じて治療を行います。

腹腔鏡下鼠径ヘルニア修復術(TAPP法)に特有の合併症

TAPP法は、お腹の中に腹腔鏡を挿入して、内側からヘルニアの出口を人工補強材(メッシュ)で補強する手術方法です。腹腔内で手術操作を行うため、鼠径部切開法とは異なる合併症が起こる可能性があります。

腸管損傷・血管損傷

腹腔内での手術操作により、非常にまれですが腸管や血管を傷つける可能性があります。万が一発生した場合には、適切な処置を行い、安全を第一に対応いたします。

腸閉塞

腹腔鏡手術では、お腹の中で腹膜を切開・閉鎖する操作を行います。その影響で、非常にまれですが腸の動きが悪くなったり、腸が癒着して通過障害を起こすことがあります。

血栓症・皮下気腫・心肺機能への影響

TAPP法では、手術を行うためにお腹の中へ炭酸ガスを入れてスペースを作ります。その影響で、一時的に腹圧が上昇し、血栓症や皮下気腫(皮膚の下にガスがたまる状態)、心臓や肺への負担が生じる可能性があります。

当院では、豊富な経験をもとに、手術前の十分な評価、適切な術式選択、安全な手術手技、術後のフォロー体制を整えることで、合併症の予防に努めています。また、ご帰宅後も不安な症状がある場合には安心してご相談いただける体制を整えています。

再発について

鼠径ヘルニアを手術によって治療した後、同じ部位に再びヘルニアが生じることを「再発」といいます。鼠径ヘルニアの手術では再発を防ぐためにヘルニア門を適切に修復し、必要に応じてメッシュなどの人工補強材を使用します。しかし、再発の可能性を完全になくすことはできません。当院での再発率は、鼠径部切開法、腹腔鏡下手術のいずれにおいても1%以下と非常に低い水準と考えていますが、再発がまったく起こらないわけではありません。当院の経験では、再発がみられる時期としては術後1年前後が比較的多いと考えています。
再発した場合には、手術前と同じように、立ったときやお腹に力を入れたときに、やわらかい膨らみが現れ、横になると小さくなったり、押すと戻ったりすることがあります。また、明らかな膨らみがなくても、手術した部位の痛みや違和感が再発の兆候となる場合があります。手術後に、以前と同じようなふくらみや痛み、違和感などの症状がみられましたら、再発の可能性がありますので、早めに当院へご相談ください。

手術費用について

鼠径ヘルニア手術は健康保険が適用されます。
費用は術式や負担割合によって異なりますが、高額療養費制度をご利用いただくことで自己負担額を抑えることができます。

3割負担の場合
54,000円〜120,000円(初診/術前検査7,000円・鼠径ヘルニア手術44,000〜110,000円・術後再診3,000円)
1割・2割負担の場合
8,000〜22,000円(所得による)令和8年8月〜令和9年7月診療分

※時間や使用する薬剤等により、多少の増減があることをご理解ください。

※高額療養費の対象となる場合、窓口でのお支払いは少なくなります。参照:協会けんぽ

鼠径ヘルニア手術 Q&A

患者さんからよくいただくご質問をまとめました。

Q手術は痛いですか?
A

手術中は麻酔を行いますので、痛みを感じることはありません。
手術は麻酔を十分に効かせた状態で行いますので、手術中の痛みはありません。術後は傷の痛みが出ることがありますが、痛み止めを使用しながらコントロールします。痛みには個人差がありますが、多くの患者さんは歩いてご帰宅され、翌日も歩いて受診されています。

Q自宅で傷の処置は必要ですか?
A

特別な処置は必要ありません。
ご自宅での処置は必要ありません。創部を白いテープで圧迫したままお帰りして頂きますので、翌日の診察まではそのままにしておいてください。

Qシャワーや入浴はいつからできますか?
A

シャワーは手術翌日から可能です。
浴槽につかる場合は短時間とし、傷口は強くこすらず、やわらかいタオルで軽く押さえるように水分を拭き取ってください。

Q仕事にはいつから復帰できますか?
A

デスクワークであれば手術翌日から可能です。
軽作業であれば翌日から復帰できる方が多くいらっしゃいます。重い荷物を持つ仕事や力仕事をされる方は、仕事内容に応じて復帰時期をご案内いたしますのでご相談ください。

Q運動はいつからできますか?
A

軽い運動は手術翌日から可能です。
散歩やストレッチなどの軽い運動は翌日から行えます。ジョギングや筋力トレーニング、ゴルフなど腹圧のかかる運動は、術後約2週間を目安に再開していただいています。

Q普段の生活で気を付けることはありますか?
A

日常生活に大きな制限はありません。
階段の昇降や散歩、電車・バスでの移動は翌日から可能です。自転車や自動車の運転も可能ですが、痛みや違和感がある場合は無理をせず休憩してください。アルコールは処方薬の服用中はお控えください。

Q男性機能や性機能への影響はありますか?
A

影響はありません。
鼠径ヘルニア手術によって勃起や射精機能に影響することはほとんどありませんのでご安心ください。なお、性交渉については傷の痛みが落ち着くまでは控えていただくことをおすすめしています。

Q日帰り手術を受けるための条件はありますか?
A

安全に手術を受けていただくため、以下の4つのお願いをしております。

  1. 帰宅後は、ご家族などと一緒にお過ごしください。
    特にご高齢の方や持病をお持ちの方は、万が一体調の変化があった場合に備え、ご家族など付き添いのある環境でお過ごしいただくようお願いいたします。
  2. ご帰宅は、お車で約1時間以内の範囲をお願いしています。
    術後まれに出血などの対応が必要となることがあります。緊急時に速やかに当院で診察・処置ができるよう、ご帰宅時間の目安を設けています。
  3. ご帰宅は、タクシーまたはご家族の運転するお車をご利用ください。
    麻酔の影響により、術後しばらくはふらつきや気分不快が生じることがあります。そのため、ご自身での自動車・バイク・自転車の運転はお控えください。また、公共交通機関では接触や転倒など思わぬ事故につながる可能性があるため、安全面を考慮し、タクシーまたはお迎えでのご帰宅をお願いしております。
  4. シャワー・入浴は、当院の指示に従ってください。
    シャワーや入浴の時期・方法については手術後に詳しくご説明いたします。
Q術後に痛みや腫れが出た場合はどうすればよいですか?
A

ご不安な症状がありましたら、遠慮なく当院へご連絡ください。
術後は痛みや腫れ、皮下出血などがみられることがありますが、多くは時間とともに改善します。強い痛みや急な腫れ、出血など気になる症状がある場合は、速やかに当院へご相談ください

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