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社会保険 横浜中央病院 ②
~印象に残る患者様 ①~
外傷性膵損傷
前回紹介させていただいた横浜中央病院の外科は、食道から肛門までの消化管疾患をはじめ肝胆膵疾患、鼠径ヘルニアなどの体表疾患の手術を幅広く行なっており年間700件以上の手術件数がありました。
今回は私が勤務した約10年間に経験した手術患者様の中で、最も印象に残っている症例について紹介いたします。(個人情報には十分配慮いたします)
雨混じりの土曜日深夜0時過ぎでした。患者様は10代後半のAさん。
アルコール摂取後に喧嘩に巻き込まれ全身を殴打され救急搬送されました。
酩酊状態でしたが「殴られた」とお腹を押さえながら繰り返し訴えていました。
顔面は腫れ上がり、洋服は泥だらけで全身擦過傷(擦り傷)の状態。直ちに検査を行いました。
幸い頭部には異常はありませんでしたが、膵臓(すいぞう)と肝臓に損傷があることが判明しました。
特に膵臓は損傷の状態が悪く、外傷性膵損傷の診断で早朝より緊急手術となりました。
膵臓はお腹の上の方で胃の後ろにある、長さ20cmほどの左右に細長い臓器です。
膵臓には食べ物の中のタンパク質を溶かす「膵液」という消化液を作って十二指腸に分泌する働きと、血糖値を調節するホルモンを作って血液に分泌する働きがあります。
お腹を開けて慎重に胃の後側を見てみると、左右に細長い膵臓はその中央で「真っ二つ」にちぎれていました。
膵臓の周囲には太い血管が多いのですが、奇跡的に影響はありませんでした。
手術は膵臓の機能をなるべく温存する手術を選択しました。
4時間以上の手術となりましたが、輸血の必要もなく術後経過も良好で退院いたしました。
術後入院中のAさんとは色々お話をしました。
未成年ながら飲酒をしていた理由、複雑な家庭環境で独り暮らしであること、幼い兄弟がいて可愛くて仕方ないこと、などなど。
横浜中央病院を退職するまでの間は私が外来でフォローいたしました。
「先生、飲みに行こうよ!」と誘われましたが、「Aさんは一生禁酒!」と笑顔で指導しました。
その後Aさんは、医療職の専門学校に進学し現在は大きな医療機関で元気に働いているようです。
開業地である YOKOHAMA三共プラザビルから、徒歩7分程の距離になります。
今後は横浜中央病院との医療連携を取り、地域医療にもお役に立てる医療機関を作っていきたいと思います。
日本外科系連合学会誌への論文投稿 症例報告
受傷直後にLetton-Wilson手術を施行したⅢb型外傷性膵損傷の1例
内容要旨
症例は19歳、男性。腹部殴打による上腹部痛を主訴に救急搬送された。
来院直後の腹部CTでⅡ型膵損傷(表在性損傷)およびⅡ型肝損傷と診断し入院経過観察とした。
受傷8時間後のCTでダグラス窩に腹水貯留と十二指腸周囲にfluid collectionが出現し、腹膜刺激徴候も認めたため、肝損傷および膵損傷による腹膜炎と判断し緊急手術を施行した。
術中所見で膵臓が完全断裂(Ⅲb型膵損傷)していたため、Letton-Wilson手術を行った。
術後に腹腔内膿瘍を認めるも穿刺ドレナージ術のみで軽快し退院となった。
Ⅲb型膵損傷に対しては,様々な術式が考案されており、患者の全身状態などを考慮し選択されている。
今回われわれは、緊急手術中にⅢb型膵損傷と診断した症例にLetton-Wilson手術を施行したので報告する。論文検索サイト 国立情報学研究所 CiNii Articles
外傷性膵損傷は、腹部外傷の中においても比較的頻度が低く、膵損傷に対する明確な治療指針が確立していないため、手術療法の時期や術式の選択については個々の症例によって異なる場合が多いのです。そのため、症例報告として学会誌に論文を投稿しました。
他にも、印象に残る患者様はたくさんいます。この続きは、またの機会に!
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